メソッド総論、目のメソッド、手のメソッドに続いて、最後は「声」です。
目と手が相手の目に情報を届けるのに対して、声は相手の耳に情報を届けます。この記事では、声のコミュニケーション機能を開発するメソッドを、第1部「声の基礎(声量と明瞭さ)」と第2部「声の表現力」の2つに分けてご紹介します。
第1部 声の基礎:声量と明瞭さ
1.声量:腹式呼吸のエクササイズ

相手に聞こえなかったら、伝わりません。声が小さいと、自信がなさそうな印象を与えます。豊かな声量で話されると、頼りがいを感じます。声量がないと、抑揚や強調が使えません。お腹から声を届ければ、信頼感を与えます。
声の大きさと声量を決めるのは、肺活量
肺活量を支えるのが横隔膜で、横隔膜は腹筋を使ってコントロールします。
- 吸うとき:横隔膜が下がり、肺が広がって空気を取り込みます。それにともない、お腹が膨らみます。
- 吐くとき:横隔膜が上がり、肺がしぼんで空気を押し出します。それにともない、お腹がへこみます。
3つのエクササイズ
- 腹式呼吸のマスター:息を吐ききり、2秒止めて、鼻から吸い、お腹を膨らませる。一定の量でゆっくり吐き、声を乗せる。
- 声量のテスト:普段の声で「あ〜」と発声し、一息で何秒続くか測る。
- 声のキャッチボール:遠くの相手に向かって、声をはっきり届ける。部屋の端と端に分かれて練習する。
2.情報量:声の「幅」を広げる

スマホの「ギガ」が足りなくなると、動画はカクカク、画像もなかなか表示されませんよね。5Gのような太い回線があれば、高画質の動画も大きなデータもスムーズに届きます。
人の声も同じです。大きさだけでなく「声の幅」が必要です。幅とは、音質や音色、そして表現の豊かさのこと。それが、伝わる情報量の多さにつながります。あなたの声のインフラを、豊かにしましょう。
- 声量(大きさ・幅)があると:聞きやすい・伝わりやすい、話しがしっかり通る
- 声質(表現力)があると:抑揚・強弱が明確、高音・中音・低音の使い分け、喜怒哀楽の表現、人としての倍精度・スケール
- 声量も声質も足りないと:声が小さい・細い・1種類の声、聞こえにくい・語彙がハッキリしない、抑揚も強調もなく表現が乏しい
3.語尾の強さ
呼吸量が少ないと、最後まで聞こえる声が出せません。日本語は特に文末に述語(動詞)がきますから、語尾が聞こえないとメッセージが曖昧になります。「するのか、しないのか。できるのか、できないのか」がハッキリしません。曖昧さは、誤魔化しや不誠実さを印象づけ、信頼を損ないます。「する・できる」という肯定的な言葉も、細い声で言われると自信がなさそうな印象になります。
また人間性としても、語尾の曖昧な人は、消極的で頼り甲斐のない人と判断されます。逆に言えば、交渉の過程で多少自信のなさがあっても、語尾に力を込めれば乗り切ることができます。
4.腹の据わった声質
日本では古来から「臍下丹田に気を集める」という言葉があります(臍下丹田は、東洋医学の身体論で、心身の活力の源である気の集まるといわれるところ)。
緊張して心臓がバクバクしている時は、腹式呼吸で吸った息を臍下丹田に溜めていきましょう。意識が下に下がることで、上体(頭から胸)の興奮は落ち着いていきます。
発声も返事も、一拍おいて、臍下丹田から腹筋の力で発信する。深いところから発せられた深みのある声質になり、信頼感や重みを持って受け取ってもらえます。
5.明瞭:母音の正確な口の形をマスターする

言葉が聞き取りにくければ、伝わりません。口元をはっきり、大きく動かしましょう。日本語の発音の土台は、5つの母音です。
- あ:唇を縦に大きく開く(縦)
- い:唇を横に開く(横)
- う:唇を突き出す(小さく丸)
- え:唇を四角に開き、上下の歯を見せる(四角)
- お:唇を大きくすぼめる(大きく丸)
声に出して練習しましょう。「あいうえお/いうえおあ/うえおあい/えおあいう/おあいうえ」、続けて「かきくけこ/きくけこか/くけこかき/けこかきく/こかきくけ」。
第2部 声の表現力を開発する5つのエクササイズ

声のコミュニケーションのエクササイズは、次の5つです。
- 口輪筋のエクササイズ
- 声の高さ:高音・中音・低音の発見
- 声の高さとスピードの組み合わせ
- 声の表現力のエクササイズ
- 演出力と表現力のエクササイズ
明瞭:口を大きく使い、明瞭に伝える
言葉が聞き取りにくければ、伝わりません。相手は、あなたの口元が見えています。口の周りの筋肉である「口輪筋」を使い、口を大きく使って、明瞭に伝えます。
表現力:話の中身に合わせて、話し方を変える
高音・中音・低音という声の高低と、速く話す・ゆっくり話すというスピード。この「声の高低×スピード」の組み合わせで、元気・知性・行動的・自信など、様々なニュアンスを声で表現できます。
エクササイズ① 口輪筋

明瞭に話すためには、口の周りの筋肉である「口輪筋」を滑らかに動かして、正確な口の形にすることが大切です。言葉が聞き取りにくいときは、まず口輪筋のエクササイズを行い、口元をはっきり、大きく動かしましょう。
- 「あ」と「お」を繰り返す(次第に速く)
- 「い」と「う」を繰り返す(次第に速く)
- 無音で「あ」と「お」を繰り返す(次第に速く)
- 無音で「い」と「う」を繰り返す(次第に速く)
鏡の前で、無音で口輪筋を動かすのもおすすめです。
滑舌のエクササイズ
「ら」と「な」を繰り返します。「ら」は舌先を上の歯の裏側へ。「な」は舌先を下の歯の裏側へ。ゆっくりから、次第に速く。
エクササイズ② 声の高さ:高音・中音・低音の発見

個人によって、また性別によって、低音域から高音域までの幅は異なりますが、私たちは無意識のうちに様々な高さの声を発しています。驚いたときに発するのは高い声で、人を脅すときには低い声。大勢の人に声を届けるときは、遠くに聞こえるように声を発しています。
声の共鳴板は、体の部位です。
- ヘッドボイス:頭のてっぺんに響かせる高音
- ミドルボイス:鼻の奥に響かせる声。ハミングがこれに当たります
- チェストボイス:チェスト(胸)に響かせる低音
音域をチェックする
- 低音域から高音域まで、何段階の音が出せるか「あ〜」でチェックしましょう。声が出やすい高さはどの音域でしょう。
- 台詞を言いながら音域を探します。「これぐらいの音が聞こえますか〜」と言葉にすると、さらに明確になります。
声の高さを変えて読む
有名な演説の一節を、低音・中音・高音・中音と、声の高さを変えながら読み分けます(文章は画像をご覧ください)。
エクササイズ③ 声の高さとスピードの組み合わせ

話す中身に合わせた声の表現イメージをマスターして、意図を持った話し方を会得しましょう。
- 信頼感・説得力 → 低音でゆっくり話す
- パワフル・迫力 → 低音で速く話す
- 知性的・説明的 → 中音でゆっくり話す
- 行動的・アグレッシブ → 中音で速く話す
- 元気・明るい・フレンドリー → 高音でゆっくり話す
- 攻撃的・エキセントリック → 高音で速く話す
最低限、次の3種類は使い分けてください。
- 元気・明るい・フレンドリー(高音でゆっくり):「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
- 知性的・説明的(中音でゆっくり):「新製品のポイントを、3つの特長に絞って紹介します」
- 信頼感・説得力(低音でゆっくり):「全力で取り組みますので、ぜひパートナーにお選びいただきますように、お願いいたします」
エクササイズ④ 声の表現力:キャラクタライズ

3種類の声のキャラクターを作ります。「あり」「はち」「地の文」それぞれが、どのようなキャラクターかイメージを詳細に説明してから、童話を読みます。
海岸で魚を見つけた「あり」と「はち」が、どっちが魚をもらうかで喧嘩をする、というお話です。最後にちょっとしたオチがあるので、地の文の声と、ありとはちの声を、はっきり演じ分けてみてください。
エクササイズ⑤ 演出力と表現力
最後は、1編の詩を声で表現するエクササイズです。テキストでは、桜の花びらを題材にした詩を使います。
- 詩を読んで、想像力を広げる。自分が受け取り、他の人と共有したい世界観を「演出プラン」にする。
- そのイメージを表現できる、声の技術(高さ・スピード・間・強弱など)を選んで構成する。
- 「世界観のイメージ」を、声で表現する。
演出プランを立てるときは、「桜はどこに咲いていますか」「時間は、いつですか」「詩ぜんたいのイメージは」という3つの問いに、自分なりの答えを書き込んでから読みます。ここまでに身につけた声量・明瞭さ・高さ・スピードのすべてを使う、仕上げのエクササイズです。
まとめ:声は、相手への信頼のインフラ
- 声量は肺活量。腹式呼吸でお腹から声を届ければ、信頼感を与える。
- 声の「幅」が、伝わる情報量になる。語尾に力を込め、臍下丹田から発信する。
- 母音の口の形と口輪筋で、明瞭に伝える。
- 声の高低×スピードで、話の中身に合わせて話し方を変える。
これで、目・手・声という3つの身体のコミュニケーション機能がそろいました。目で相手とつながり、手で目に情報を届け、声で耳に届ける。身体で伝えると、感情に作用するコミュニケーションになります。
一般社団法人 日本プレゼン・スピーチ能力検定協会

