メソッド総論では、対面コミュニケーションは「見せるもの」とお伝えしました。目のメソッドに続いて、この記事では「手」のコミュニケーション機能を開発するメソッドと、エクササイズのポイントをご紹介します。
スピーチやプレゼンテーション、1対1の会話のとき、手は何のためにあるのでしょうか。まずは、手の役割と効能から見ていきます。
1.手の役割と効能

手の役割は、目の情報をプラスすること
声がもたらす耳への情報だけでは、分かりにくかったり、印象が薄かったりすることがあります。そんなとき手は、耳と目の情報を一致させて、情報量を2倍3倍に増やし、分かりやすくします。
手の効能は、脳を活性化させること
大脳とリンクしている「神経細胞の量」は、身体の中で手がいちばん多いとされています。手を動かせば、脳が刺激されて、表情も声も活発になります。
声と言葉だけでしていたスピーチが、手が使えると声の負担が軽くなり、話すことがとても楽になります。ぜひ、それを体感してください。
手と口が異様に大きい「ホムンクルス」
体のそれぞれの部分を支配している「神経細胞の量」の割合を、体の表面積で示した人形が「ホムンクルス」です。手と口が異様に大きく描かれていて、手と口を動かすと脳が働くことが分かります。(出典:『海馬』新潮文庫)
2.手の動きの効果を実験しよう:手の能力チェック

手がもっている凄い能力を実感する、簡単な実験です。2人1組で試してみてください。
- 「テストで90点取ったよ!」に応える → アクション1:両手で小刻みにパチパチと拍手してから、「凄い、やったね!」
- 「次は100点を目指すよ!」に応える → アクション2:両手のグーを前に突き出し、拳を振りながら、「頑張って、応援するよ!」
手を動かしてから言葉を発すると、表情も声も、自然に気持ちのこもったものになるのが分かるはずです。
3.手のエクササイズの全体像
手のコミュニケーション機能を開発するエクササイズは、6つあります。
- 図解するエクササイズ
- 感情表現のエクササイズ
- 共感表現のエクササイズ
- 態度表現のエクササイズ
- 両手のホームポジション
- フル・ボディランゲージ
4.エクササイズ① 図解する


次の言葉や文章を、手で表してみてください。言葉だけでは伝わりにくいことを、手で「絵」にして相手の目に届けます。
形態・サイズ
- 長〜い棒、短い定規(手を左右に広げて表す)
- かなり遠い、すご〜く近い(自分の目を起点に、前の方と手前を表す)
- 塀が高い、柵が低い
- プールに飛び込んだら深かった
時間・空間
- 午後1時から10時まで掛かりました
- あと1分、秒針がカチカチと
- 大空いっぱい!
- この部屋の広さの半分
- 東京ドーム3個分の大きさ
性質・状態
- とても硬い金属、柔らかい手触り(硬い金属のカタチを描いてから硬さを、クッションやタオルなど柔らかいモノのカタチを描いてから柔らかさを表す)
- 見るからに刺々しい(両手の人さし指を突き出して表す)
- なめらかなスロープ(スケール感を表すように)
- ふんわりとしたクッション
数字・移動
- ポイントは3つ
- わずか10分の1(アナログ表現で)
- 右から左へ、前から後ろに(後ろは振り向いて)
- 北海道から沖縄まで行きました(日本地図を描いてください)
5.手を動かす時の6つのチェックポイント

1 サイズや大きさを正確にすること
言葉だけでは分かりにくいので図解するのですから、「40センチの箱」を描くなら、40センチの幅に手を広げてください。見ている人に違和感を与えてはいけません。
2 指先を伸ばして丁寧に描く
ひと目で理解できるように図解するのですから、乱雑で無神経な絵を描くと信頼を台無しにします。ディテールを大事にした、指の動きが美しく神経の行き届いた所作にしてください。
3 描く指先を自分でも見ること
あたかも目の前に物があるかのごとく描くのですから、そのものが目に見えているように。自分でも見るから、相手も見てくれるのです。
4 手で描いてから、言葉を発すること
手が先で、言葉は後から追いかけるようにしてください。相手の目に情報を届けてから、次に耳に情報を追加するイメージです。
5 自然の間合いは、手が作る
手が動いている時は、言葉がなくてもメッセージは伝わっています。百聞は一見に如かず。言葉よりも多くの情報が、手で伝えられます。
6 感情や共感は、手に委ねてください
相手を褒める時は、両手を合わせてパチパチと拍手すると、自然と良い表情が引き出されます。応援するよという時は、両手を握りしめて軽く振るだけで、目の表情も、声のトーンも、嘘のない共感力のあるものになります。
6.図解するエクササイズの応用篇

次の文章の太字のところを、手で図解しながら話してください。手が先に動いてから、言葉を。手を動かしながら話すと、話すことが楽になります。それを実感してください。
- 今日は、3つの話をします。1つ目は箱の話です。サイズはタテヨコ40cmくらいです。重さは2kg位で、
- こうして下から持ち上げると、大きさの割に軽いと感じます。
- さて、この箱の中身ですが、材質が正反対のモノが2つ入っています。1つは丸くて柔らかい、指で押すとプニュッと中にめり込む感じです。もう1つは真四角で硬い材質、指ではじくとカンカンと金属音がします。
7.エクササイズ② 感情表現

喜怒哀楽の感情表現も、手に主導させると、表情も声のトーンも嘘のない表現になります。手を先に動かし、引き出された感情を感じてから、言葉を発してください。
特に「ルンルン」なんて、言葉だけで言おうとすると、どんなトーンで声を出していいか分かりません。でも手が先に動くと、自動的に声のトーンは決まります。
- 喜び「やった!」:両手を突き上げたり、片手でガッツポーズを作ったり
- 怒り「許せない」:両手で×を作ったり、拳を突き出したり、両手を組んで憤慨を表したり
- 悲しみ「あぁ〜」:頭を抱え込んだり、涙を拭ったり
- 楽しさ「ルンルン〜」:ランニングの腕振りをしたり、両ひじを上下させたり
8.エクササイズ③ 共感表現

相手の気持ちに寄り添う共感も、手から伝えます。
- 賛同「いいですね!」:親指を立ててGoodのサインを送ったり、片手でガッツポーズを作ったり
- 安心「いやぁ、ほっとしました」:両手を胸に当てて
- 願い「祈る気持ちです」:両手の手の平を合わせて、軽く力を込める
- 応援「頑張りましょう」:握った両拳を顔の前で、気持ちを込めて振る
- 自信「まかせてください」:胸をポンと叩いて
- 賞賛「おめでとう、良かったね」:両手で小刻みに軽く拍手をしましょう
9.エクササイズ④ 態度表現

同じ両手でも、体の幅の内側で使うか、外側に開くかで、相手に伝わる態度が変わります。
内側:「慎重に、丁寧に、きめ細かく対応させていただきます」
両手を体の幅の内側で使い、手をそっと緩やかに動かします。和菓子の包装を開いていくように、緻密・繊細・丁寧な態度を、手のアクションで相手に見せて感じさせます。
外側:「ご安心ください。すべてご説明いたします」
両手を体の幅の外側に開いて、両脇は閉じたポーズをとります。両手を広げて胸を開いて見せるのは、自分の心や気持ちを相手に見せること、自分をオープンに示すことです。胸襟を開く、懐に何も隠していないことを表します。そして両手を開いて懐を空けるのは、「ハグ」できる状態を示す、友好のサインでもあります。
10.エクササイズ⑤ 両手のホームポジション

コミュニケーションを行う時の手の位置は、話し手の胸の前です。聞き手(受け手)の目にビジュアル情報を届けるために、相手に見えやすい胸の前、というわけです。2つのホームポジションをマスターしましょう。
静のホームポジション〈安定感、落ち着き〉
- 指を仮想のミトンの手袋に入れ、指先の余計な動きを止める。
- 両手を胸の前で柔らかく合わせる。左右どちらが上でもよい。
- 鳥が枝にふわっと止まるように力まず、動作の後はこの位置に戻す。
動のホームポジション〈オープンマインド・アグレッシブ〉
両手を広げて、胸元・懐には何も隠していませんよと胸筋を開く。親愛の情を表すために、ハグするように両手を広げる。このボディランゲージは、相手の人に対して心を開いていることを表します。
11.エクササイズ⑥ フル・ボディランゲージ

手の動きを支えるのは、体全体です。体全体から伝わる雰囲気・態度・メッセージを整える土台が、安定した立ち方です。
へその下にある、気が集まる場所とされる臍下丹田(せいかたんでん)。意識を下へ集めることで下半身がどっしりと安定し、上体の力みが分散します。ゆったり大きな動きの中に気を集めると、落ち着きが生まれ、外側にも表れます。
- 両足をほぼ肩幅に開き、足指で大地を掴む
- 軽く膝を上下し、体の重心と安定を確認する
- 上虚下実:上半身はリラックス、下半身はどっしり
- 腹式呼吸で臍下丹田に気を集める
吐く息を静かに臍下丹田に集める。これが、安定した立ち方の仕上げです。
まとめ:感情や共感は、手に委ねる
- 手の役割は、目の情報をプラスすること。手の効能は、脳を活性化させること。
- 手が先、言葉は後。相手の目に情報を届けてから、耳に情報を追加する。
- 感情や共感は手に委ねると、表情も声のトーンも、嘘のない表現になる。
- 手の位置は胸の前。体全体は、臍下丹田で安定させる。
手が動き出すと、話すことが楽になり、伝わり方が変わります。ぜひ、体で感じてみてください。
一般社団法人 日本プレゼン・スピーチ能力検定協会

